2014年7月5日土曜日

透明な沈黙 [単行本]

透明な沈黙 [単行本]

ウィトゲンシュタインに何となくの興味はありましたが、難しそうで敬遠していました。
透明標本も、以前から綺麗だなとは思っていたのですが、グロテスクに見えてやはり手付かずでした。
でも二つが組み合わさって少しとっつきやすくなり、
このタイトルとジャケットで即買いでした。

「語ることのできないものについて人は沈黙しなければならない」という言葉と、
沈黙したままの透明な標本写真。巧い組合せを考えたものだと思います。

収録されている言葉は、結構痛いところを突いてきます。
「自分を欺かないことほど困難なことはない」
「罪を負った良心は簡単に告白できよう」
観念的な言葉も多いですが、こんな風に生々しく、人の一面をえぐる言葉もまた多いです。

透明標本は、綺麗だとは思うもののやはり多少グロテスクでした。
でもこれらの言葉と組み合わさると、
グロテスクだからこそ、力強さに繋がるんだと思えてきました。

綺麗なだけではない有りのままの姿、
同じように人間を表した言葉、
それらが持つ力強さの符合。
そして改めて、人間の繊細さや標本の綺麗さが際立って見えました。

どちらの魅力も十分に引き出し合っている組合せです。
これらを組み合わせようという、企画自体が素晴らしい本でした。
なかなか面白い取り合わせを考えたものである。孤高の哲学者Wittgensteinと透明標本、そしてそれらを代表する著者として鬼界彰夫と冨田伊織の組み合わせ。おそらくこの組み合わせは編集部のIdeaで、上記の二人は面識もないのではないか?後書きを鬼界彰夫が書いているが、透明標本にも冨田伊織にもまったく言及せずに、前期Wittgensteinと後期Wittgensteinの違いあたりを書いているところをみると、どうも鬼界彰夫自身はそのどちらにも関心があまりないように見受けられる。

本としては読む本というよりは見る本で、冨田伊織の前著”新世界透明標本”にWittgensteinの短いPhrasesを散りばめたようなものとなっている。Wittgenstein自身が詩人のようなところがあり、彼の著作も論語あたりと同じで片言隻語をつなぎあわせて作っていくStyleなので、こういう使い方に抵抗はないと思われる。

欲を言えば、最後に鬼界彰夫と冨田伊織の対談のようなものがあれば、もっと面白かったと思われるが、編集部の方はどうであろうか?
美しい。なぜウィトゲンシュタインと組み合わせ?と思わないこともなかったが、面白いと思う。
 深海生物の本と一緒に購入しました。
一方は暗黒の中を泳ぐ透明な生物、逆にこちらは純白が背景の動かない透明骨格標本。
どちらも、新しい写真表現だと感じたのでほぼ同時に手に入れました。

 交互に両写真集を眺めていると、面白い共通点に気が付きました。
どちらの本も単なる学術的解説に留まらず、有名な哲学者や詩人の文章を添えている点です、
不思議な透明な体を眺めていると、その文章が頭の中に自然と入り溶け込んで来る様でした。
生き物のスケルトンをこんな美しい標本にするなんて素晴らしです。
骨格が繊細なレースで作られたようで、解剖教室にあった生々しい標本とは全く別物のようです。
21世紀のゲイ実品のひとつだと思います。


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